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経理の属人化を解消する:統制強化とAIエージェント導入のロードマップ

経理の属人化は、担当者の善意や努力では解消できません。株式会社TOKIUMが2026年5月21日に発表した調査によると、仕訳入力の判断が特定の担当者の経験や記憶に依存していると回答した経理担当者は66.1%に上ります。税務判断や連結決算のように判断の重い業務は、少数の担当者に集中しやすい性質があります。この記事では、属人化の実態を一次統計で確認し、内部統制の観点から何を先に整備すべきかを示し、AIエージェント導入で工数と判断のばらつきをどこまで減らせるかを具体的な手順とチェックリストで示します。

経理部門の属人化解消と内部統制強化のロードマップを示す記事のカバー画像

01マニュアルを作っても属人化は解消しない

属人化が解消しない理由は、マニュアルの有無ではなく判断基準の不在にあります。TOKIUMの同調査では、仕訳入力の判断基準となるマニュアルが「整備されていない」または「不十分」と回答した割合が73.7%に達しています。この数値は、マニュアルを作った企業でも判断の再現性が確保できていないことを示しています。

仕訳入力は、勘定科目の選択、消費税区分の判定、部門按分の基準など、複数の判断が連続する業務です。マニュアルに手順を書いても、例外処理や過去の慣行に依存する判断が残ると、担当者が異動や退職をした瞬間に業務が止まります。株式会社ミロク情報サービスが2024年10月4日に発表した調査でも、中小企業の経理担当者が働く上での悩みとして「業務の属人化」を選んだ割合が50.0%に上っています。マニュアル整備は必要ですが、それだけでは判断の属人化までは解消しないと考えられます。

属人化には、業務手順が分からないという表層の属人化と、判断の根拠や優先順位が分からないという深層の属人化があります。多くの企業が着手するのは前者のマニュアル化ですが、実際に業務を止めているのは後者です。たとえば消費税区分の判定で、取引先や取引内容によって例外的な扱いをしてきた履歴は、マニュアルには残らず担当者の記憶にのみ蓄積されます。この記憶依存の判断を洗い出さない限り、マニュアルを何度書き直しても同じ課題が残り続けます。

属人化の深層と表層を切り分けて考える視点は、経理以外の業務改革でも共通しています。属人化対策として資料を整備しても実際には使われなくなる現象は、他部門でも広く見られます。この構造については、属人化対策で作った資料は、なぜ使われなくなるのかでも詳しく扱っています。

属人化解消の第一歩は、マニュアルを書き足すことではなく、判断の分岐点を洗い出して基準を数値化することです。

66.1%仕訳入力の判断が特定の担当者の経験や記憶に依存していると回答した割合出典: 株式会社TOKIUM「仕訳入力に関する実態調査(n=946)」(2026-05-21)
73.7%仕訳入力の判断基準マニュアルが「整備されていない」または「不十分」と回答した割合出典: 株式会社TOKIUM「仕訳入力に関する実態調査(n=946)」(2026-05-21)
50.0%働く悩みとして「業務の属人化」を選んだ中小企業経理担当者の割合(全回答中最多)出典: 株式会社ミロク情報サービス(MJS税経システム研究所)「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査(n=362)」(2024-10-04)

02中堅企業に固有の属人化構造

専門部署を分けるほどの人員規模がなく、中小企業のように経営者が経理を兼務することもない企業では、経理課の人員規模が中途半端であるために属人化の影響が大きくなります。この規模帯特有の課題として、税務申告や連結決算といった発生頻度の低い高度業務を、経験年数の長い1〜2名が担い続ける構造が生まれます。

この構造は、決算の遅延、税務調査での説明不能、退職時の引き継ぎ不全という3つのリスクに直結します。属人化対策として引き継ぎ資料を整備する企業は多いですが、資料を作った時点で満足してしまい、実際の業務では使われなくなるケースが目立ちます。この点については、属人化対策で作った資料は、なぜ使われなくなるのかで引き継ぎ資料が形骸化する具体的な理由を扱っています。

内部統制の観点では、判断が1名に集中している状態は職務分掌の不備として監査で指摘される対象です。経理課長がこの構造を経営層に説明する際は、属人化を個人の能力問題ではなく統制上のリスクとして提示することが有効です。統制まわりの整理をAI導入前にどこまで進めるべきかは、経理でAIを使う前に、統制まわりで整理しておく論点で個別に扱っています。

この規模帯でもう一つ見落とされがちなのが、業務量の季節変動です。決算期や税務申告期に業務が集中する一方、閑散期には同じ担当者が他の業務を兼務するため、繁忙期にしか使わない判断基準が形式知化されにくいという事情があります。年に数回しか発生しない処理ほど、担当者の記憶に依存する度合いが高くなる点は、対策の優先順位を考えるうえで重要です。

この規模帯特有の属人化構造は、経理部門に限った話ではありません。組織全体でみれば、現場の判断が特定の担当者に集中する構造そのものが、業務改革を進めるうえでの共通課題になっています。現場を起点にした改革をどう進めるかについては、現場主導のAXを成功させる3つの条件でも論じています。

経理業務の属人化構造を示す図。判断業務が特定担当者に集中する様子と統制上のリスク経路
中堅企業に典型的な、判断業務の集中構造とリスク経路

03AIエージェントへの期待は高いが、導入は進んでいない

経理担当者の期待値と導入の現実には大きな差があります。TOKIUMが2025年6月23日に発表した調査では、経理AIエージェントに人手不足解消への期待を示した経理、財務担当者が79.1%に上る一方で、活用が進まない要因としてスキル不足が41.0%、人材、ノウハウ不足が35.0%を占めています。期待はあっても、導入に踏み出せていない企業が大半だと分かります。

この差は、AIエージェントの選定や設定を担う専門人材が社内にいないことに起因すると考えられます。経理課長がAIエージェント導入を検討する際は、既存業務フローの生成AI組み込み方について事前に把握しておくと判断がしやすくなります。関連する手法は生成AIを組み込んだ次世代の社内ワークフロー構築手法で扱っています。

TOKIUMが2026年6月1日に発表した別の調査では、「AI活用は重要」と回答した経理担当者の割合が示されています。意識の変化だけでは導入は進みません。スキル不足やノウハウ不足が導入の障壁として挙げられている以上、社内に専門人材を育てるか、外部の知見を借りるかの判断を早い段階でしておく必要があります。他部門での導入事例を参考にする場合、業種によって統制の考え方が異なる点には注意が必要です。製造業における段階的な導入の考え方は製造業におけるAI伴走型オペレーションモデルへの転換で扱われており、経理とは異なる業種でも導入の順序に関する示唆が得られます。

04承認業務の負担も属人化の一因になっている

経費申請の承認業務は、経理課長個人の判断に依存しやすい業務です。TOKIUMが2025年9月10日に発表した調査では、経費申請の差し戻しを「精神的負担」と感じている承認担当者が97.5%に上ります。差し戻し判断の基準が明文化されていない場合、承認者本人の経験則に頼らざるを得ず、これも属人化の一形態です。

承認業務の基準を数値化することは、属人化解消と統制強化の両方に効きます。差し戻し基準を金額、勘定科目、申請者の役職といった条件で明文化し、AIエージェントに一次判定を任せることで、承認者の心理的負担と判断のばらつきを同時に減らせます。承認業務は属人化の中でも見落とされやすい領域であり、仕訳入力と同じ優先度で見直す必要があります。

承認業務の属人化がとくに厄介なのは、差し戻しという行為そのものが人間関係に影響するためです。基準が曖昧なまま差し戻すと、申請者から見れば承認者の個人的な判断に見え、部門間の摩擦を生みます。逆に基準を数値化しAIエージェントによる一次判定を挟むことで、差し戻しの根拠が「ルール」として提示され、承認者個人への不満が生じにくくなるという副次的な効果も期待できます。デロイト トーマツ グループが2025年8月28日に発表した調査では、生成AIの導入によって人材の配置転換を行っているプライム市場上場企業(部長クラス以上)が約4割に上るとされており、AI活用が業務量の削減だけでなく人員配置の見直しにもつながっている実態がうかがえます。

97.5%経費申請の差し戻しを「精神的負担」と感じている承認担当者の割合出典: 株式会社TOKIUM「承認担当者に関する実態調査(n=1,100)」(2025-09-10)
約4割生成AI導入により人材の配置転換を行っていると回答したプライム市場上場企業(部長クラス以上)の割合出典: デロイト トーマツ グループ「プライム上場企業における生成AI活用調査(n=700)」(2025-08-28)

05属人化解消は3段階のロードマップで進める

属人化解消は、判断基準の可視化、統制設計の見直し、AIエージェント導入の3段階で進めます。この順序を逆にすると、統制が整わないままAIを導入することになり、判断の根拠が誰にも説明できない新しい属人化を生むおそれがあります。事業構想オンラインが2026年8月17日に転載したNTTデータ経営研究所の経営研レポートでは、AIによる属人化解消と組織設計の関係が論じられています。

この3段階を急いで縮めようとすると、かえって遠回りになります。判断基準の可視化を省略していきなりAIエージェントを導入すると、AIの判定結果が正しいかどうかを判断できる担当者がいない状態になり、結局は元の1〜2名に確認が集中します。段階を飛ばさず、各段階で得られたデータを次の段階の設計に反映させることが、ロードマップ全体の実行速度を上げる近道です。

属人化解消の3段階ロードマップ
  1. 第1段階: 判断基準の可視化

    過去1年分の仕訳データから、勘定科目の選択や消費税区分の判定で例外処理が発生した件数を担当者別に集計します。件数が多い担当者に、判断の根拠をヒアリングし、条件分岐の形で文書化します。

  2. 第2段階: 統制設計の見直し

    判断基準が可視化できたら、承認権限を1名に集中させず、金額や科目に応じて複数名で分担する職務分掌表を作成します。監査対応を想定し、誰がどの基準で承認したかを記録に残す仕組みを決めます。

  3. 第3段階: AIエージェント導入

    文書化した判断基準をもとに、仕訳の一次判定や経費申請の差し戻し判定をAIエージェントに任せます。最終承認は人が行い、AIの判定結果と人の判断が食い違った件数を月次で記録し、基準を更新し続けます。

06経営層への説明にはチェックリストと数値が要る

経理課長が経営層を説得する際は、属人化を放置するリスクを数値で示す必要があります。「属人化しています」という定性的な報告では予算がつきません。仕訳判断の66.1%が特定担当者に依存しているという実態、担当者不在時に決算が何日遅延するかという試算、承認業務の97.5%が精神的負担になっているという心理的コストを並べて提示すると、経営層は投資判断をしやすくなります。

経営層への提示は、削減効果の見積もりを添えられるとさらに説得力が増します。ただし削減見積もりは、算出根拠が曖昧なままだと会議で「で、いくら?」と問われた瞬間に信頼を失いやすい資料でもあります。見積もりの作り方や提示の仕方については、「で、いくら?」で潰される削減見積もりの直し方で扱っています。

AIエージェント導入の判断チェックリストは、以下のプロンプトを使って自社の経理データから自動生成できます。ChatGPTやClaudeなどの生成AIツールに、社内の仕訳データの傾向を要約したうえで貼り付けて使ってください。

そのまま使えるプロンプト属人化解消チェックリスト生成プロンプト
あなたは経理部門の内部統制コンサルタントです。以下の情報をもとに、経理課の属人化リスクを評価するチェックリストを作成してください。

【自社の情報】
- 従業員規模: [人数を入力]
- 経理課の人員数: [人数を入力]
- 過去1年の仕訳入力件数: [件数を入力]
- 仕訳判断で例外処理が発生した割合: [割合を入力、不明なら「不明」と記載]
- 決算業務を1〜2名で担当している業務の一覧: [業務名を列挙]
- 経費申請の月間差し戻し件数: [件数を入力]

【依頼内容】
1. 上記の情報から、属人化リスクが最も高い業務を3つ挙げ、それぞれのリスクの根拠を説明してください。
2. 各業務について、判断基準を文書化する際に洗い出すべき条件分岐の項目を箇条書きで示してください。
3. AIエージェント導入の優先順位を、リスクの高さと導入の実現しやすさの2軸で並べてください。
4. 経営層への説明資料に使える、投資対効果の試算項目(削減工数、リスク回避額)を提示してください。

社内の仕訳データや人員数を入力してから使ってください。実際の数値を入れるほど、精度の高いチェックリストが得られます。

属人化解消の3段階ロードマップと各段階の所要期間を示す図
判断基準の可視化から統制設計の見直し、AIエージェント導入までの3段階ロードマップ

07次にすることは、自社の依存率を測ることです

属人化解消の出発点は、AIツールの選定ではなく自社の依存率を測ることです。仕訳入力の何パーセントが特定の担当者に依存しているか、経費承認の差し戻し判断が何名の経験則に頼っているかを、まず自社のデータで確認してください。全社共通の統計値は目安にはなりますが、業種や決算スケジュールによって依存構造は企業ごとに異なります。

自社の経理業務が現場主導で改善を進められる状態にあるかどうかも、あわせて確認する価値があります。現場主導の改善が定着する条件については現場主導のAXを成功させる3つの条件で扱っています。また、AIエージェント導入の投資対効果を経営層に示す際、削減見積もりが説得力を持つかどうかは提示の仕方にも左右されます。この点は「で、いくら?」で潰される削減見積もりの直し方で扱っています。

データと意思決定の距離が近いほど、属人化解消の取り組みは経営層に伝わりやすくなります。仕訳データや承認履歴をリアルタイムで可視化し、依存率の変化を継続的に追える仕組みを持つことは、一度きりの調査結果を示すよりも説得力があります。この考え方はDeltalyze Platformが目指す、データと意思決定の即時連結で扱っている内容とも重なります。

measure first、fix next の順序を守ることが、属人化解消を一過性の取り組みで終わらせない条件です。

SOURCES

出典と参考資料

  1. 株式会社TOKIUM「仕訳入力に関する実態調査」(2026-05-21)
  2. 株式会社TOKIUM(PR TIMES)「「AI活用は重要」と回答した経理は65.4%、約1年で15.6ポイント増加」(2026-06-01)
  3. 株式会社TOKIUM「経理AIエージェントに関する実態調査」(2025-06-23)
  4. 株式会社TOKIUM「承認担当者に関する実態調査」(2025-09-10)
  5. 株式会社ミロク情報サービス(MJS税経システム研究所)「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」(2024-10-04)
  6. デロイト トーマツ グループ「プライム上場企業における生成AI活用調査」(2025-08-28)
  7. 事業構想オンライン(NTTデータ経営研究所「経営研レポート」転載)「AIで属人化を解消した企業に迫る属AI化リスク 判断主権を守る組織設計とは」(2026-08-17)

KEY TAKEAWAYS

実装に持ち帰る要点

  • 仕訳入力の判断が特定担当者の経験に依存している割合は66.1%、判断基準マニュアルが未整備または不十分な割合は73.7%です。
  • 属人化解消は、判断基準の可視化、統制設計の見直し、AIエージェント導入の3段階で進めると、新たな属人化を防げます。
  • 経費承認の差し戻しを精神的負担と感じる担当者は97.5%に上り、承認業務も属人化の対象として見直す必要があります。
  • 経営層への説明には、依存率や決算遅延日数など自社データによる数値提示が必要で、全社統計は目安にとどめます。

FAQ

よくある質問

経理の属人化はマニュアルを整備すれば解消しますか。

マニュアル整備だけでは解消しません。TOKIUMの調査では、マニュアルが整備されていない、または不十分と回答した割合が73.7%に上る一方、マニュアルがあっても判断の再現性が確保できていない企業が多いと考えられます。判断の分岐点を洗い出し、条件を数値化することが先に必要です。

AIエージェント導入は統制設計の前後どちらで進めるべきですか。

統制設計の見直しを先に済ませてから導入することを勧めます。統制が整わないままAIエージェントを導入すると、判断の根拠が誰にも説明できない新しい属人化が生じるおそれがあります。

中堅規模の企業に特有の属人化リスクはありますか。

専門部署を分けるほどの人員はなく、経営者が兼務するほど小規模でもないため、税務申告や連結決算のような高度業務が1〜2名に集中しやすい構造があります。この規模帯では、決算遅延と退職時の引き継ぎ不全のリスクが同時に高まります。