01何が 発表されたか
カリフォルニア州は2026年9月30日、AIのみによる雇用上の重大決定を禁じる法律に州知事が署名したと発表しました。法案を提出したのはカリフォルニア州上院議員のJerry McNerney氏(SD05)で、正式名称は「SB 947」、通称「No Robo Bosses Act of 2026」です。
この法律は、解雇や懲戒をAIだけで決めることを禁じ、AIを主に使って決める場合は人間が別の情報で確かめることを求めます。CNBCによると、確かめる材料には上司の評価、同僚の評価、人事記録などが挙げられています。あわせて対象の従業員には、AIを主に使ったこと、使われた従業員データの説明、判断を説明できる担当者を書面で知らせる必要があります。
この法律には前段があります。ニューサム知事は2025年10月、ほぼ同内容の前身法案「SB 7」を一度は拒否権を発動して退けていました。法案は2026年2月に再提出され、今回は知事が署名に転じました。
02施行時期と 罰則
企業がまず押さえるのは、施行日と違反時の制裁金です。
法律の施行日は2027年7月1日です(出典: Bloomberg Law)。それまでに企業は、AIによる雇用判断のプロセスに人間のレビュー工程と書面通知の仕組みを組み込む必要があります。
違反時の民事罰は、法案段階の解説(2026年2月、Crowell & Moring)で1件につき500ドルとされています。労働委員会(Labor Commissioner)や検察官が執行にあたり、懲罰的損害賠償や弁護士費用の負担が生じる可能性もあると説明されています。成立した条文の金額は、施行までに確認が必要です。
03業務での 使いどころ
この法律が直接対象にするのは解雇や懲戒ですが、影響は人事評価全般の運用設計に及ぶと考えられます。未確認ですが、米国子会社を持つ日本企業は、カリフォルニアに拠点がなくてもグループ全体の人事評価AIのポリシーを見直す動きにつながる可能性があります。
具体的な業務で見ると、1つ目は従業員のパフォーマンス評価です。AIがスコアを算出する仕組みを使っている場合、そのスコアだけで昇給や契約更新の可否を自動決定しない運用に変える必要があります。2つ目は勤怠や生産性のモニタリングツールです。AIが異常値を検知した際、懲戒の提案までは出しても、最終的な実行判断は人間が行う工程を挟む設計が求められます。
3つ目は採用選考です。この法律の対象は在職者の解雇や懲戒が中心ですが、採用段階でAIスクリーニングを使っている企業も、同様の人間レビュー工程を先取りして整えておくと、今後の規制強化に備えやすいと考えられます。生成AIを業務フローに組み込む設計全体については、生成AIを組み込んだ次世代の社内ワークフロー構築手法でも整理しています。
04統制と データの 取り扱いで 確かめる こと
確かめるべきことは4点です。第一に、重大な雇用判断(解雇、降格、懲戒)の最終承認者が人間であることをワークフロー上で明示しているかです。承認ボタンを人間が押す設計であっても、その人間が内容を実質的にレビューせずに承認している実態があれば、この法律の要件を満たさないおそれがあります。
第二に、AIが生成した判断材料と、人間が下した最終判断を、別々のログとして保存しているかです。監査の際に「AIが何を提案し、人間が何を決めたか」を分離して提示できる記録体系が必要になります。社内の統制設計については経理でAIを使う前に、統制まわりで整理しておく論点で扱った論点と重なる部分が多くあります。
第三に、従業員への書面通知のフローです。AIが関与した重大決定について、対象者に通知する文面と経路をあらかじめ用意しているかを確認します。第四に、権限設計です。AIツールの設定を変更できる人間が誰で、その変更履歴が残るかどうかも監査対象になり得ると考えられます。属人化した引き継ぎ資料の問題にも通じる論点で、属人化対策で作った資料は、なぜ使われなくなるのかで触れた、運用が形骸化する構造とも共通します。
05次の 一手
今週できることは、自社で稼働している人事評価AIやモニタリングツールの一覧を洗い出し、解雇や懲戒に関わる判断にAIがどこまで関与しているかを棚卸しすることです。
次に、その判断プロセスのどこに人間のレビュー工程が入っているかを図にして確認します。レビュー工程が形だけになっていないか、承認者が実際に内容を確認した記録が残っているかを見ます。
この法律はカリフォルニア州の州法ですが、人間の最終判断とログの保存という考え方は、拠点の場所を問わず当てはまる統制です。自社のAI活用ロードマップに、この2点を評価項目として先に組み込んでおくことをすすめます。関連して、AIエージェント導入時の統制設計は経理の属人化を解消する:統制強化とAIエージェント導入のロードマップでも具体的な手順を書いています。
- 1. ツールの棚卸し
人事評価、勤怠モニタリング、採用選考で稼働しているAIツールを一覧化します。
ツール名、対象業務、利用部署を列にした表を作ります。 - 2. 判断の分離を確認
各ツールについて、AIが出すのは
提案までか、最終決定まで自動で行っているかを区分します。最終決定まで自動化されている工程があれば、人間の承認工程を挟む設計に変更します。 - 3. ログの保存先を確認
AIの提案内容と人間の承認記録が、別々に、かつ
改変できない形で保存されているかを確認します。保存先が同一ログに混在している場合は分離を検討します。 - 4. 通知文面を用意
AIが関与した重大決定について、対象者への
書面通知のひな形と送付経路を用意します。
SOURCES
出典と参考資料
- California State Senate (Sen. Jerry McNerney, SD05)「Newsom Signs McNerney's No Robo Bosses Act of 2026 Requiring Human Oversight of AI in the Workplace」(2026-09-30)
- CNBC「California Gov. Gavin Newsom bans AI 'robo bosses' in landmark state law, reversing his earlier veto」(2026-09-30)
- Bloomberg Law「New California Law Requires That Humans Decide Firings, Not AI」(2026-09-30)
- Crowell & Moring「California SB 947 ("No Robo Bosses Act")」(2026-02-02)
KEY TAKEAWAYS
実装に持ち帰る要点
- カリフォルニア州は2026年9月30日、AIのみによる解雇、懲戒を禁じるSB 947に知事が署名した
- 施行日は2027年7月1日。法案段階の解説では違反1件500ドルの民事罰
- 人事評価AIは『AIの提案』と『人間の決定』をログ上で分離して記録する設計が求められる
- 日本企業は拠点の場所を問わず、人間レビューとログ保存を自社のAI運用ルールに先取りして組み込める
FAQ
よくある質問
この法律は日本企業にも直接適用されますか。
SB 947はカリフォルニア州法です。米国子会社を持つ企業や、今後グローバルで人事評価AIを統一運用する企業にとっては、同様の統制を先取りする参考事例になると考えられます。
対象になるのは解雇だけですか。
報道によると解雇に加えて懲戒などの重大な雇用判断も対象です。日常的な勤怠管理や軽微な業務指示までは対象にならないと考えられますが、線引きの詳細は施行までの実務ガイダンスを確認する必要があります。
施行の2027年7月1日までに何をすればよいですか。
自社で稼働する人事評価AIの判断プロセスを棚卸しし、AIの提案と人間の最終決定を分離してログに残す仕組みを整えることをすすめます。本文の手順を参考にしてください。


